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「毎日の歯磨き」から考えるウイルス感染予防

「毎日の歯磨き」から考えるウイルス感染予防

ウイルス感染の予防策といえば手洗い、うがい、消毒が基本。
でも本当にそれだけで十分でしょうか。お口の中から健康を考えるシケンとしては、体内への入り口である口からの感染も気になるところです。
そこで、ウイルス感染対策における歯科の重要性を提唱している鶴見大学歯学部探索歯学講座教授の花田信弘先生にお話を伺いました。
国立感染症研究所の部長も務めた経験のある花田先生、「お口の中の感染対策」について教えてください!

お話をうかがったのは・・・

鶴見大学歯学部探索歯学講座教授
花田信弘(はなだのぶひろ)先生

九州歯科大学歯学部卒業、同大学院修了。米国ノースウェスタン大学博士研究員、九州歯科大学講師、岩手医科大学助教授、国立感染症研究所部長、九州大学教授(厚生労働省併任)、国立保健医療科学院部長を経て、2008年より鶴見大学教授に就任。2006年にアイルランドでのIADR(国際歯科研究学会)で学会発表をご一緒したご縁から、今回ご登場いただきました。

2006年IADRにて

2006年IADRにて

2020年10月、鶴見大学研究室にて

2020年10月、鶴見大学研究室にて

もくじ

  1. はじめに、先生のご専門を教えてください。
  2. 先生は「新型コロナウイルス」についてどういった印象をお持ちですか
  3. 新型コロナウイルスは、歯科分野とも関わりがあるものですか
  4. 重症化を予防することはできるのですか
  5. 「口腔清掃」って、何をしたらよいのでしょう
  6. 「口腔清掃」は、インフルエンザや他の疾患予防にも効果がありますか
  7. 「口腔清掃」は、セルフケアだけで十分でしょうか
  8. 最後に、これからのウイルスとの付き合い方について、どのようにお考えですか

-はじめに、先生のご専門を教えてください。

専門分野は、口腔衛生学および公衆衛生学です。口の中をきれいにすることで、健康や暮らしにどういった効果があるのかを、個人や社会全体を対象に研究しています。

-先生は「新型コロナウイルス」についてどういった印象をお持ちですか

2003年のSARS、2012年のMARSは、非常に病原性の強いウイルスによる感染症でした。
しかし、これらは実はそれほど拡散しませんでした。なぜならあまりに病原性が強く、感染したら一発で倒れてしまい、ウイルスを持った人間が移動しなかったためです。
一方、新型コロナウイルスは若干病原性が低いので、感染しても平気な方がたくさんいます。移動もできてしまうので、あちこちに広まってしまう。この感染力は凄まじいものだと感じています。

花田信弘先生

-新型コロナウイルスは、歯科分野とも関わりがあるものですか

はい、大いに関係していると考えています。新型コロナウイルスは、唾液腺、舌、歯肉の細胞に感染することがわかっています。これは、インフルエンザウイルスにはない、新型コロナウイルス特有の特徴です。
公衆衛生学的にいうと、唾液が社会全体に飛沫という形で広まっていくという点で関わりがあります。また、新型コロナウイルス感染症で気をつけなければいけないのは、ウイルス性肺炎と細菌性肺炎の混合感染。いわゆる「重症化」と呼ばれている症状です。重症化というのは、まずウイルスによって炎症が起こったあとに、細菌性の炎症が起こり二重感染してしまった状態を言います。細菌性の感染の原因は、生活習慣病に関わることが多いので、歯科の分野としても十分に責任があると思っています。

新型コロナウイルス_図

- 重症化を予防することはできるのですか

重症化してしまうのは基礎疾患がある人、ということはテレビなどでもよく言われていますね。では、この基礎疾患ってなんでしょう。これは言い換えると「慢性炎症」のことです。
何かしらの疾患が原因で、体内に慢性的な炎症が起こっている方が重症化しやすいということです。歯科においては、歯周病が「慢性炎症」を引き起こします。歯原性菌血症(しげんせいきんけつしょう)といって、
歯周病菌などが血液に入り込んでしまう状態です。ある実験では、歯周病の人がガムを一定時間噛んだだけで、16~40%の範囲で歯原性菌血症が起こるということが実証されています。さらに、新型コロナウイルスは、口腔内で増殖するということもわかってきました。こういったことから「口腔清掃」は感染そのものを防ぐものではありませんが、重症化を防ぐためにはとても重要だと考えています。

花田信弘先生

-「口腔清掃」って、何をしたらよいのでしょう

簡単に言うと、歯みがき、歯間掃除、舌掃除の3つです。まず歯みがきについては、虫歯に対する磨き方と歯周病に対する磨き方が異なるということを知ってください。ブラシも2本必要になります。虫歯は、ミュータンスと砂糖がつくり出す粘着性のあるバイオフィルムが原因。これを除去しないといけませんから、デッキブラシのような毛が短く硬い歯ブラシでゴシゴシ磨く必要があります。一方、歯周病に対する歯みがきは、歯と歯茎の間を掃除するため、硬い歯ブラシでは歯茎を痛めてしまいます。毛の長い歯ブラシを使って、ペングリップで優しく力を入れずに磨いていきます。口腔内でバイオフィルムを作るのは、歯垢と舌苔(ぜったい)ですから、舌のお掃除もとても重要です。舌用ブラシを使って、内側から外へと掻き出すように磨きます。最後にフロスでしっかり歯間を掃除するとよいでしょう。

-「口腔清掃」は、インフルエンザや他の疾患予防にも効果がありますか

はい。とくにインフルエンザに関してはかなり研究が進んでいて、口腔清掃をすることで、感染を助ける酵素を減らせるということがわかっています。そもそも疾患というのは、さまざまなリスク因子が重りあって起こるもの。このリスク因子を減らせればいいわけですが、リスク因子の中にも、除けるものと除けないものがあります。例えば除けないリスクの代表といえば加齢ですね。性別や遺伝子もそうです。ところが、歯周病や虫歯は予防ができます。歯医者さんなどの専門家を頼る、良い歯ブラシを買う、歯ブラシを定期的に交換するなど策はいろいろあり、歯科にまつわるリスクは除ける因子なのです。

-「口腔清掃」は、セルフケアだけで十分でしょうか

歯科医院で定期的に診てもらうプロフェッショナルケア、そのうえで適切なセルフケアをおすすめします。とりわけ歯周病はもっとも注意したい疾患。自覚症状ないまま進行するので、セルフケアだけでプラークコントロールをするのはかなり難しいのです。一方でこれからの時代は、歯科医院側の対策も必要不可欠です。現在、当研究室では、35分ほどで簡易的なウイルスチェックができる検査システム「モバイルPCR」を開発し、将来的に歯科医院に設置していきたいと考えています。仮に陽性であっても2時間以内であれば洗口剤でウイルスの感染性を失わせることで、治療を受けられるようになります。また、歯科医師たちへの感染リスクを減らすこともできると考えています。

口腔清掃

-最後に、これからのウイルスとの付き合い方について、どのようにお考えですか

新型コロナウイルスに関しては、夏ごろにはおさまるのではないかと思われていました。
しかし実際には、今なお感染が落ち着かない状況です。必要な対策を打っていると思いますが、ずっとこのままというわけにはいきません。社会が壊れてしまう前に、あるところで、生活習慣病の観点でコントロールする方向へと転換するべきです。5年後、10年後にはもっと強力なウイルスが登場しているかもしれません。各自が自己の免疫力を上げる努力をすることは、ウイルスに打ち勝っていく重要な要素になってくるでしょう。歯科においては、リスク因子としての虫歯や歯周病を防ぐことを発信していく必要があると考えています。その基本が「毎日の適切な歯磨き」だと考えます。

花田信弘先生

ウイルスと共に暮らしていく時代、口腔清掃を通じた生活習慣病を予防や、免疫力を上げていくなど、個人でできることに目を向けていくことが大切なのですね。貴重なお話、ありがとうございました!

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